東京高等裁判所 平成10年(行ケ)399号 判決 1999年5月27日
東京都目黒区中根2丁目18番6号
原告
株式会社オフイスワン
代表者代表取締役
王貞治
訴訟代理人弁理士
三觜晃司
東京都港区高輪1丁目4番10号
被告
株式会社ビギ
代表者代表取締役
大楠祐二
訴訟代理人弁護士
三宅雄一郎
同
苅野浩
同
西舘勇雄
同弁理士
佐々木功
同
川村恭子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 請求
特許庁が平成8年審判第18481号事件について平成10年10月30日にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)に定める商品区分第17類「被服、布製身回品、寝具類」とし、別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)の別紙(1)に表示したとおりの構成からなる登録第2713814号商標(昭和58年11月1日登録出願、平成8年5月31日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成8年10月31日、商標法4条1項11号に違反することを理由として、本件商標の登録を無効とすることにつき審判を請求した。
特許庁は、同請求を同年審判第18481号事件として審理した結果、平成10年10月30日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年11月25日原告に送達された。
2 審決の理由
審決の理由は、審決書に記載のとおりであり、審決は、本件商標は、引用商標(登録第2712069号商標。審決書別紙(2))とは非類似の商標であり、商標法4条1項11号に違反して登録されたものということはできないから、その登録を無効とすることはできないと判断した。
第3 審決の取消事由
1 審決の認否
(1) 本件商標(審決書2頁3行ないし7行)、引用商標(同2頁9行ないし15行)、請求人(原告)の主張(同2頁17行ないし4頁22行)、被請求人(被告)の答弁(4頁末行ないし7頁22行)は認める。
(2) 当審(審決)の判断のうち、本件商標は、審決書別紙(1)に表示のとおり、「BIGI」の欧文字を同じ書体、同じ大きさ、等間隔で表したものであって、特定の語義を有しない造語商標と認められること(7頁末行ないし8頁2行)、本件商標から「ビギ」の称呼を生ずること(7頁14行、15行)は認め、その余は争う。
2 取消事由
審決は、引用商標の外観、称呼、観念の認定を誤ったため、本件商標と引用商標とは類似しないとの誤った判断に至ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 外観について
審決は、引用商標は、「大きい」の意味を有する一般に親しまれた英単語「BIG」と細線で縁取りした数字の「1」とを結合した商標と容易に理解、認識されるものといえるから、両商標は、その外観において相紛れるおそれはない旨(審決書8頁3行ないし13行)認定、判断するが、誤りである。
本件商標と引用商標とは、両者を構成する第1字から第3字までの欧文字の綴りを共通にし、しかも、字間を狭く、かつ肉太に構成されている共通性がある。
両者は、末尾において、本件商標が欧文字の「I」であるのに対し、引用商標が細線で縁取りした数字の「1」である点で構成上相違している。しかし、引用商標の4文字は、上下の長さ、字体の大きさ、字体において同一であり、文字間隔が等しく構成され、4文字が一体的に構成されている。そして、欧文字の「I」と数字の「1」は、字形において、視覚的に近似している。
したがって、本件商標と引用商標とに時と所を異にして接する取引者、需要者は、両商標の外観上の印象を相似たものとして把握し、これを互いに誤認混同するおそれがある。
(2) 称呼、観念について
審決は、引用商標は「ビッグワン」と称呼されるものと認められるので、本件商標と引用商標とを一連に称呼するも、相紛れることなく聴別し得るものであり、また、観念の点においても相紛れるおそれはない旨(審決書8頁16行ないし19行)認定、判断するが、誤りである。
前記(1)のとおり、引用商標は「BIGI」と認識され、「ビギ」と称呼されるおそれがあるといわざるを得ない。
第4 審決の取消事由に対する反論
1 認否
審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 外観について
引用商標中の「BIG」の欧文字3字と末尾の「1」は書体を異にしており、特に、末尾の「1」は細線で縁取りされているから、引用商標は、取引者、需要者によって、欧文字の「BIG」と数字の「1」を一連に書したものと認識されるものである。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観上相紛れるおそれはない。
(2) 称呼、観念について
上記(1)のとおり、引用商標は、「BIG」の欧文字と数字の「1」を一連に書してなるものと認識されるものであるから、引用商標からは、「ビッグワン」の称呼が生じ、「大いなる1番」なる観念が想起されるものである。
したがって、本件商標と引用商標とは、称呼上、観念上も相紛れるおそれはない。
理由
1 本件商標の構成、指定商品等(前記第2、1)、引用商標の構成、指定商品等(審決書2頁9行ないし15行)は、当事者間に争いがない。
2 外観について
(1) 前記引用商標の構成(審決書別紙(2)参照)によれば、引用商標のうち最初の3文字は、被服等の取引者、需要者によって、欧文字の「BIG」を書したものと理解されるものと認められる。
引用商標のうち末尾の1文字は、2文字目の「I」とは異なる字体で書され、しかも、細線で縁取りされているから、一般に欧文字の「I」と数字の「1」は視覚的に似ており、混同しやすく、引用商標において3文字目の「G」と末尾の1文字「1」との間に隙間が空けられていない等の点を考慮しても、被服等の取引者、需要者によって数字の「1」を書したものと認識されるものと認められる。
そうすると、引用商標は、全体として、欧文字の「BIG」と数字の「1」を一連に書してなるものと理解されるものと認められる。
(2) 本件商標が「BIGI」の欧文字を同じ書体、同じ大きさ、等間隔で表したものであることは、当事者間に争いがなく、この構成(審決書別紙(1)参照)によれば、本件商標は、被服等の取引者、需要者によって、欧文字の「BIGI」を一連に書したものと認識されるものと認められる。
(3) したがって、本件商標と引用商標とは、外観上相紛れるおそれはない旨の審決の認定、判断に誤りはなく、これに反する原告の主張は理由がない。
3 称呼、観念について
(1) 前記2(1)のとおり、引用商標が取引者、需要者によって欧文字の「BIG」と数字の「1」を一連に書してなるものと理解されるものであり、「BIG」の欧文字は我が国おいても「大きい」を意味する英単語として一般に知られていることは、明らかであるから、引用商標からは、「ビッグワン」との称呼が生じ、「大きい1」ないし「大いなる1番」のような観念が生ずるものと認められる。
(2) これに対し、本件商標が「ビギ」の称呼が生じ、特定の語義を有しない造語商標であることは、当事者間に争いがない
(3) したがって、本件商標と引用商標とは、称呼上相紛れるおそれがあるものとは認められず、観念の点においても相紛れるおそれはない旨の審決の認定、判断に誤りはなく、これに反する原告の主張は理由がない。
4 結論
そうすると、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼、観念のいずれの点においても相紛れるおそれのないものであるから、非類似の商標といわざるを得ないとの審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
よって、原告の本訴請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年4月27日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
理由
1 本件商標
本件登録第2713814号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙(1)に表示したとおりの構成のものであり、昭和58年11月1日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として平成8年5月31日に登録がなされたものである。
2 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の無効理由に引用する登録第2712069号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙(2)に表示したとおりの構成のものであり、昭和52年3月15日に登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他の類に属するものを除く。)寝具類(寝台を除く。)」を指定商品として平成8年1月31日に登録がなされたものである。
3 請求人の主張
請求人は、「登録第2713814号商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対し次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第8号証(枝番号を含む。)を提出した。
本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきである。
引用商標は、本件商標の先出願に係るものであり、両商標は、類似し、その指定商品も同一である。
両商標は、最初の3文字の「BIG」が外観的にほぼ同様である。そして、末尾において、本件商標が、アルファベットの「I」であるのに対し、引用商標が細線により縁取りされた数字の「1」である。しかしながら、後者は、細線により縁取りされた数字の「1」であっても、4文字は、天地の長さ、字体の太ささ、字体において、同一であり、その上、文字間隔が等しく構成されている。即ち、4文字が一体的に構成されており、「BIG」と「1」が、離間されて構成されていない。その上、数字の「1」と、アルファベットの「I」が、視覚的に近似していることは、何人も認めるところである。
これらのことから、両商標は、外観的にその印象が極めて接近しており、外観的に類似の商標である。
登録第1480120号商標は、アルファベットブロック体の「BIGIS」であり、登録第2176921号商標は、アルファベットブロック体の「BIGI’S」である。本件商標の「BIGI」とは、共に類似性ある商標として連合商標として登録された。類似性に巾があるとすれば、非類似に近いが類似性がある商標として、連合商標として登録されたと思われる。
本件商標と登録第1480120号商標及び登録第2176921号商標が、それぞれ相互に類似性があるならば、本件商標と引用商標とは、外観上、類似性があるということを否定できないと思われる。これは、単なる、事案の相違でなく、非常に重要な事例のように思われる。
甲第5号証は、引用商標と同一の商標「BIG1」と、やや変形された「BIGI」との類否について、外観類似があると判断された審決例である。
甲第7号証は、引用商標が、出願公告された際に、被請求人から請求された登録異議申立の理由補充書である。同号証において、異議申立人は、やや変形された「BIGI」と、引用商標「BIG1」が、誤認混同が必至であることを具体的かつ詳細に主張した上で、その結論において、「登録異議申立人に於ても、本願商標を一見したときは、引用商標と同一の構成からなる「BIGI」の4文字であると認識し、本願商標の第4文字目が数字の「1」からなっているという差異に気が付くまでにやや時間を要したという状況であった。」と述べ、引用商標の「BIG1」のうちの「1」が、本件商標の「BIGI」のうちの「I」と認識し、誤認したことを、被請求人自身が、自認している。
このことからみても、引用商標の「BIG1」は、外観的に、本件商標に係る「BIGI」と類似し、誤認混同されることは必至である。
以上の理由から、請求人は、本件商標は引用商標と外観的に非類似であるとして登録されたことに納得がいかず、本件無効審判に及んだ次第である。
4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第3号証を提出した。
本件商標はゴシック体の欧文字をもって「BIGI」と構成してなるのに対して、引用商標は「BIG」の3文字を肉太の欧文字をもって表し 数字の「1」を籠字にて表し、これを結合した構成からなるものであり、両商標は外観上明瞭な差異があること明らかである。引用商標は「BIG」と数字の「1」の結合であり、数字の「1」は籠字にて表されているところから、数字であることが容易に読み取れるものである。
また、請求人は、両商標を天地の長さを同じくすると、ほぼ同じになると主張しているが、本件商標を拡大して引用商標の大きさに都合よく近づけたにすぎず、そのような比較を根拠にすることは全く無意味なものである。
本件商標の末尾の「I」と引用商標の末尾の「1」が視覚的に近似していると主張しているが、本件商標の場合は「BIGI」の文字が一連一体に構成されているのに対して、引用商標は「BIG」と数字の「1」が構成文字を異にしているので、両者の区別は容易である。
請求人は、本件商標と連合商標となっている2件の登録商標を挙げて、それぞれ相互に類似性があるならば、本件商標と引用商標とは、外観上、類似性があるということを否定できないと主張しているが、本件商標と引用商標が外観上紛れるおそれのない非類似の商標であること明らかであることはもとより、類否の判断に重要な要素を占める称呼上の類否を無視していることでも理由のない主張である。
本件商標は、「BIGI」の構成に相応して「ビギ」の称呼が生ずるものであるところ、登録第1480120号商標は、「BIGIS」の欧文字から構成されており、これから「ビギス」の称呼が生ずるものである。また、登録第2176921号商標は、「BIGI’S」の欧文字から構成されており、これに相応して「ビギス(ズ)」の称呼が生ずるものとなっている。すなわち 本件商標と各連合商標の称呼上の相違は語尾音における「ス」若しくは「ズ」の音の有無という差異にすぎず、不明瞭な語尾音差異として本件商標と各連合商標とは、称呼上類似するものと考えるべきである。
請求人は、甲第5号証の審決についてふれている。請求人は、本件商標に対する登録異議申立事件においても同様な理由を申し立てたが、登録異議の決定においては、事案を異にすること、本件商標と引用商標とは非類似の商標と判断したことを相当とするからその主張は採用できないとされたのであり(乙第1号証)、登録異議の決定通り、甲第5号証の事件は事案を異にするものである。
請求人は、引用商標に対する被請求人(申立人)が登録異議申立の理由補充書に記載した箇所をそのまま引用しているが、引用商標に対する登録異議申立は 被請求人の使用商標の周知性を立証し、引用商標はこれに類似すると主張したのであり、本件商標と引用商標とが類似していると主張したものではない。請求人の主張は論理のすり替えにすぎない。
本件商標は、ブロック体の欧文字をもって「BIGI」と構成し、これより「ビギ」の称呼が生ずるものである。これに対して、引用商標は、肉太のブロック体(始点及び終点にセリフを設けた)をもって「BIG」の3文字を表し数字の「1」を籠字をもって表したものを結合して構成した「BIG1」の商標からなり、これに相応して「ビツグワン」の称呼が生ずるものである。
両商標の称呼についてみるに、本件商標から生ずる「ビギ」の称呼と引用商標の「ビツグワン」の称呼とは余りにも大きな差があり、詳細に比較するまでもなく称呼上明確に聴別することができ、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であること明らかである。
本件商標と引用商標の観念においても、本件商標は特定の観念を有しない造語に係るものであり、引用商標は「BIG1」の構成及び「ビツグワン」の称呼から、「一番大きい」なる観念を想起させるものとなっている。
よって、両商標は観念においても互いに相紛れるおそれのないものである。
以上、本件商標は引用商標と外観において類似するものではなく、かつ、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとしてその登録が無効とされる理由は全くないものである。
5 当審の判断
よって判断するに、本件商標は、別紙(1)に表示のとおり、「BIGI」の欧文字を同じ書体、同じ大きさ、等間隔で表したものであって、特定の語義を有しない造語商標と認められる。
一方、引用商標は、別紙(2)に表示のとおり、「BIG」の欧文字と細線で縁取りした数字「1」を一連に表してなるものである。そして、構成中の「BIG」の欧文字は「大きい」を意味する語として一般に親しまれている英単語であると認められる。
そうとすると、本件商標と引用商標とは、前示のとおり、前者が欧文字のみからなる造語商標であるのに対し、後者が前記の意味を有する一般に親しまれた英単語と細線で縁取りした数字の「1」とを結合した商標と容易に理解、認識されるものといえるから、両商標は、その外観において相紛れるおそれはないものと判断するのが相当である。
そして、本願商標と引用商標は、前記の構成文字・数字からみて、前者が「ビギ」の称呼を生じるものと認められるのに対し、後者が「ビッグワン」と称呼されるものと認められるので、これらを一連に称呼するも、相紛れることなく聴別し得るものであり、また、観念の点においても相紛れるおそれはないものである。
してみれば、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼、観念のいずれの点においても相紛れるおそれのないものであるから、非類似の商標といわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものとみることができず、結局、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別紙
<省略>